渇望への回答 そもそもスペインと過ごして泣かなかったことなんてない、嬉しさも楽しさも悔しさも切なさも全部もたらされてロマーノの心はスペインの言葉や行動一つで簡単に揺らいでしまうのだから。 「お前なんか知るか!もう来るな!」 搾り出すように履き捨てた言葉はどう届いたのだろう。心配そうな顔をしながらも手を伸ばすことをやめ、寂しげな視線を寄越してスペインは何もしなかった。嫌と言えば絶対にやめる。昔から、泣きじゃくり首を振り癇癪を起こすロマーノを放り捨てなかったのはスペインだ。小さい身体の頃はよしよし大丈夫怖くないだなんて抱き締めた腕を放さずに泣き疲れるまで傍にいた。それは成長した今でも変わらず、ただ、拒絶の色濃くなったあたりから戸惑う素振りが増えてきた。それは明らかに自分にも非がある事は分かっていたが、だからと言って捻くれきった性格をすぐさまどうこう出来るはずもない。 いつ、呆れられるのか。 そんな怯えが頭を何度も過ぎる。 ずっとあやしてくれたからと言ってこれからもそうである可能性などないのだ。それでも期待してしまう、何があってもどんなに手酷く撥ね付けても自分を見捨てないスペインを。これはとんでもない執着であり依存だ、理解しているのに止まらない。傷つけて傷つけて傷つけて、その結果何倍にも自分が傷つくのを分かっていながらお前のせいだと泣き喚く。 スペインは鈍感だけど心の機微がない訳じゃない、自分だって何もかもが気に入らない訳じゃない。ただ噛み合わない事があるたびに身の軋むような思いをするのが辛すぎる。本当にもう来なくなったら?笑いかけることさえなくなったら?最悪の結果ばかり考えるくせに口から零れるのは非難で手は拒絶を示してしまう。 耐え切れずぼろぼろと涙を零しながら壁へ凭れずり落ちていくロマーノを呆然と見やり、スペインが伸ばし損ねた手を強く握り締めて口を開いた。 「俺にどないしろ言うん」 低い声色にロマーノの肩がびくりと震える。 一層溢れる涙が顔をぐしゃぐしゃにし、うずくまるように膝を抱え込んだ。 「嫌てわんわん泣かれて触るんも弾かれて、そんで今帰ったりしたらお前のこと誰が見んねん!」 投げ付けられた言葉を考える前にスペインの腕が壁を突いて囲われていた。音と衝撃に思わず顔を上げてしまえば、鋭く睨みつける相手の瞳と視線がかち合う。ひゅっと息を飲んで小刻みに身体を震わせるも、それが気に入らないか強く抱きこまれてしまう。体温を感じるものの心が休まるはずもない、ますます縮こまるロマーノに苛立ってスペインがいよいよ声を張り上げた。 「俺かて嫌やでロマは俺のもんや俺で泣いとっても笑わせるんは俺だけや他の奴なんかに譲ったらん!」 頭に響く音を繋ぎ合わせてロマーノが瞠目する、何かおかしい、スペインは何を言ってるのだろう。腕の中で反応を返せないでいると弱々しい声音となって耳元へ唇が寄せられる。 「なあ、縋るんやったら俺だけにして」 脳へ直接伝わるような感覚だった。痺れるようにぞくぞくと全身を包み、強張っていた身体が解けて甘えるように凭れかかる。ロマーノの腕が回されるのを感じ、スペインは安堵の息を吐いた。ぐずって擦りつく背中を愛しげに撫でて、髪の毛に何度も口付けを落とす。腕の力を強めると、慈しむ声で囁いた。 「許さへんよ、俺以外で泣き止むやなんて」 |