自爆コマンド 2 また来たのか、視線だけでそう言われるのも慣れた。 ここまで邪険にされるとかえって面白くなってくる。 考えてみればこの状況は逆なのだ、自分が海馬をまだ受け入れてなかった頃と同じ態度を見ているようではっきり言ってむず痒い。これで諦める選択肢がなかった海馬はすごいのかもしれない。しかし自分も相当ほだされたようだ、放っておけばいいものをわざわざ通い詰めたりして。 実際、話をするのは数分がいいところで、大体は挨拶すらも無視がデフォルトに近かった。 今日もモクバを交えたからこそ実現した微妙に寒々しいティータイムを過ごしている。理由をつけて席をはずしたモクバは多分しばらく帰ってこないのだろう。心遣いはありがたいが、今の海馬相手にそれをやられても非常に困る。だが、いつもの海馬だったらそもそもこんな状況にはなっていない訳で。 やりきれない気分で当事者を見る。仕事にも生活にも支障がなければ思い出す義理も義務もあるはずがない、でも自分にはそれが日常であり、いきなり消えましたじゃ済まないレベルまできてしまった。 投げやりのようなそれでいて睨むでもない視線を受け、海馬が訝しげに顔を上げる。 「何だ」 「オレ、お前のこと思った以上に好きだったんだなー、と」 がしゃん。海馬の手からカップが滑り落ちた。 「うわ、大丈夫か」 慌てて手を伸ばし、何か拭くもの、と言い掛けた城之内に鋭い声が飛んだ。 「近寄るな」 嫌悪感を剥き出しにして後ずさる海馬。 とどまるところのなくなったコーヒーは机の端から滴り、じわじわと染みを広げていく。 「オレにそういう趣味はない」 きっぱり言い切る態度に、カチリ、何かスイッチの入る音がした。 「なんか、今すっげームカついてきた」 火がついた導火線は高速で怒りを運び、全身を駆け巡る。 「テメェが力ずくで押し通して押し通して粘り勝ちやがった結果だろうが!」 逃げても跳ねつけても諦めないどころかふてぶてしく笑い、あまつさえ追い詰めておきながら肝心な場所で無駄に躊躇してみたり、心の休まる隙など微塵もなかったあのやり取り。 結局は受け入れてしまったがための、時間。 「既成事実まで作っといて忘れましたハイさよーならだあ?」 ふざけるな、何の権利があって。 「ぜってーオレに惚れさせてやる!」 無意識に叫んだ台詞は城之内自身を硬直させた。 双方とも固まってしまったティータイムは戻ってきたモクバによって時間が進みだし、和やかに終息した。表向きは。 家に帰ってから自分の口にした内容の恥ずかしさに部屋をごろごろ転がりまわったあたり、馬鹿である。 言ってしまったものは仕方がない、と数日で復活した城之内、一応それなりに遠慮していた海馬への態度を戻すことにした。当たり前のように馴れ馴れしく、図々しく。元々、城之内は人当たりが良い。海馬につっけんどんなのは要は相手の態度が鼻についていたからであって、自分が嫌っていなければ親しく話しかけることにためらいなどこれっぽっちもなかった。 そうやって、過ごしていたのだ、つい最近まで。 「モクバってほんと可愛いよな」 宣戦布告してしばらくが過ぎた。当初ドン引きしていた海馬だが自分はともかくモクバの交流までそうそう口も出せず、ずるずると奇妙な距離を保って今に至る。別にあんなことを言ったからって具体的に何かしようとは思わないし、第一、海馬に迫ろうとか正直思えない。無茶いうなと言いたい。 ある部分が違うだけで、ほぼ変わらない日常だった。自分と連絡を取るのが兄か弟か、それだけだ。 学校の帰り道、珍しく徒歩の海馬を捕まえて、早足に合わせながらたわいのない話をする。無視されないのは物凄い進歩、そう考えて動物を手懐ける課程のようだと己に呆れた。 「貴様…モクバによからぬ気を起こすなよ」 「いちいち反応すんな、むかつく」 たまに思い出したように件の発言にかぶせてくる海馬が本気で鬱陶しい。あの時の気持ちは総合すれば「お前が言うか!」以外の何でもないのだ。 「俺だって可愛い女の子の方がいいに決まってんだろ!なんでよりによってテメェみたいな人格破綻者に入れ込むハメになったのかこっちが聞きてぇよ!」 万感の思いを込めて叩きつけるも、別の意味で感心された。 「貴様にしては難しい言葉を知っていたな」 「いっそ全部の記憶を飛ばすか?」 |