処置なし


不毛だとは分かりつつも言いたくなることだってある。
ソファでぐだぐだと寝転がっていた城之内は頬杖をつき、近くの男を見上げて投げかけた。

「なんかお前、しつこくね?」
「何がだ」

すぐさま反応し、視線だけ投げて寄越した相手を半目で見つめるが、ふいと顔を背けてげんなり呟く。

「……改めて口にするのはすーげー嫌なんだけどな」

溜息をついて起き上がろうとしたところ、顎にかかる指、くいっと引き寄せられれば息がかかるほどに近づく顔。

「だーからー!そう毎度毎度してくるんじゃねーよ!しかも何回も」

衝動的に払いのけてソファに背をつく。噛み付かんばかりに威嚇する様子に、海馬はふむとひとりごちる。

「ああ、口付けか」
「うっ、わ、なんか今ちょっと鳥肌たった。お前その表現はねぇよ…なんかお前がそういう単語言うの気色悪いわ」

あからさまに嫌な顔をして城之内が立ち上がって距離を取る。割と本気で引いていた。
色んな意味でこの期に及んで、と怒鳴りつけてやりたい気持ちを抑え、つかつか歩み寄る海馬。

「つくづく無礼だな凡骨。キス如きでぐだぐだ言うな」

煩い口はそれこそ、塞いでしまえばいいのだと。
今度こそしっかり捕らえた相手を押さえ込み顎を掴み唇を重ねる。

「ごときってお前の場合マジしつこ…――っんぅ、ば、っか、やめ、」

城之内が逃れようにも頭は固定され、腰もしっかりと捕まえられていた。
緩やかに吸い付いてくるのは慣れてしまった感触で、合間に口角や唇をなぞる舌先にぞくり、と肩を震わせる。
歯ではなく唇で何度も甘噛みされ、まるで食べられているかのような錯覚、酸素を求め、大きく吸い込めば、 待っていたと言わんばかりに舌が差し込まれた。たちまち絡めとられ抵抗の間もなく口内を蹂躙、 頭の中が真っ白になり伸ばした指で海馬の肩へ力の限り爪を立てる。ふ、と鼻で笑う気配に目を開けると 愉悦を浮かべた瞳がこちらを見つめ、更に深くなるキスが城之内の力を奪った。
かくん、膝から崩れ落ち凭れ掛かる城之内を抱きとめ、海馬は満足そうに耳を舐める。

「もう、立てないか?」

続けて吹き込まれる言葉に怒りを感じ睨みあげるも、酸欠と余韻でままならない。
くつくつと喉を鳴らした海馬が、名残を惜しむよう軽く口付ける。

「これで満足してやっているのだから我ながら殊勝な態度だと思うがな」

自嘲を含めた声と笑みに、何がだどこがだ、途切れ途切れに問うてみると、

「求める衝動のまま貴様に触れればバイトどころの話ではないぞ」

さらり、言ってのけた表情は至極真面目。
淡々と事実を述べただけという態度が全てを物語っており、寒気がした。

「嫌か」

固まってしまった城之内を見咎め、不機嫌に聞く声。

「嫌か、と聞いている」

重ねられた問いかけは先程より強く、責めるようなもの。
そこまで真剣に言われては、うざい黙れとも返せない。

「そうじゃねぇけどよ……」

歯切れの悪い答えを許さず海馬は更に言い募る。

「ならば何の問題がある」
「てめぇには羞恥心とかそーゆーもんはねぇのかっ」

だー!もう!と声を張り上げて喚く城之内は今度こそきっちり目を合わせて突きつけた。
対する海馬は心底馬鹿にした態度で手を伸ばしてくる。

「くだらんな、貴様の小心に合わせていたらそれこそ何もできんではないか。それとも貴様から仕掛けてくる度胸があるとでもいうのか?」
「や、オレは正直どっちでもいい」
「即答するな」

そもそもこんなことで討論自体したくはないのが城之内の本音だ。今更の話だが。

「代替案も出せぬのなら文句を言うな、大人しく受けていろ」

相変わらず俺ルールで無理矢理終了させる海馬の顔がまた近い。
とことんあほらしくなってきたので、とりあえず聞いてみた。

「つまり、オレに触りたくてたまんねーわけ?」
「当然だ」

即答するな、相手と全く同じツッコミは吐息と一緒に飲み込まれた。

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